多摩川水系

多摩川水系は、東京都と神奈川県を流れる多摩川を主要な幹川とする水系だ。その源流は山梨県甲州市の笠取山に発し、奥多摩の山々を縫って東へ流れ、途中には日原川や秋川、浅川といった主要な支流が合流する。これらの支流はそれぞれが独自の渓谷や扇状地を形成し、多摩川本流へと豊かな水量を供給している。

特に、上流部では深いV字谷を形成し、御岳山や御嶽渓谷といった景勝地を生み出している。中流部から下流部にかけては、河川敷が広がり、都市近郊の貴重な自然空間として、多くの動植物の生息地となっている。また、古くから治水や利水に利用され、江戸の水道を支える玉川上水や、農業用水として利用された二ヶ領用水など、人々の生活と深く結びついてきた歴史を持つ。

このように、多摩川水系は、その地理的特徴から、上流の山間部から下流の都市部まで多様な環境を有し、東京都民や神奈川県民の生活、文化、歴史に多大な影響を与えてきた、極めて重要な水系である。

多摩川水系は、東京都を流れる大河でありながら、フライフィッシングの魅力が隠されたフィールドだ。その上流部と、意外なほど身近な下流域とでは、まったく異なる種類の釣りが楽しめる。

上流部の渓流と管理釣り場

多摩川のフライフィッシングといえば、まず上流部の秋川や、その支流である養沢川が挙げられるだろう。これらの川は、都心からのアクセスも比較的良いにもかかわらず、手付かずの自然が残る渓流相を見せる。ここでは、美しいヤマメや、源流域に生息するイワナが主なターゲットだ。特に養沢川にある養沢毛鉤専用釣場は、日本で最も歴史のあるフライフィッシング専用の管理釣り場として知られている。ここでは、定期的に魚が放流されており、初心者からベテランまで、安定したコンディションでフライフィッシングを楽しめる環境が整えられている。クリアな水質の中で、ライズを狙うドライフライの釣りや、ニンフでの攻略が中心となるだろう。

下流域でのユニークな釣り

一方で、多摩川水系の魅力は渓流だけにとどまらない。都心部を流れる多摩川本流の中下流域でも、フライフィッシングは十分に可能だ。ここでは、美しい渓流魚を狙うというよりは、より身近な魚たちとの出会いが待っている。主なターゲットとなるのは、大型のコイや、数釣りが楽しめるウグイ、そして繊細なアプローチが求められるオイカワなどだ。これらの魚たちは、専用のフライパターンやテクニックを駆使することで、意外なほどエキサイティングなファイトを見せてくれる。特にコイは、フライの対象魚としては非常に大きく、力強い引きでアングラーを楽しませてくれるだろう。

アクセスの良さと注意点

多摩川水系は、東京都内やその近郊に住むアングラーにとって、非常にアクセスしやすいフィールドだ。電車や車での移動も比較的容易で、日帰り釣行には最適と言える。しかし、多くの区間で漁業協同組合による遊漁券が必要となり、禁漁期間や C&R（キャッチ＆リリース）区間といった細かなルールが設定されている場合が多い。釣行前には必ず最新の情報を確認し、自然への配慮とマナーを守って楽しむことが重要だ。多摩川水系は、都市と自然が共存する環境で、日本のフライフィッシングの多様性を体験できる貴重な場所だと言えるだろう。